千葉での暮らしは、大きな台風で突然終わりを迎えます。大阪で日雇いバイトをしながら、松本さんが探したのは「農業と建築とアートができる場所」。たどり着いたのは、一度も会ったことのない建築家への直接の連絡と、来たこともなかった福島県大玉村への移住でした。コロナ禍、独学4か月で挑んだ一級建築士試験、ポセミンがちらりとデビューした初めてのグループ展。そして築250年の古民家での一人暮らしと、東北弁に戸惑いながらも村に溶け込んでいく日々を聞きました。
この回の話題
| 時間 | 話題 |
|---|---|
| 00:17 | 前回のふり返り。ポセミンの物語が生まれた千葉時代 |
| 01:14 | 大きな台風が2つ。停電と断水で、シェアハウスが解散 |
| 02:09 | 大阪に避難。日雇いバイトの日々 |
| 04:30 | 日雇い生活とポセミン。ステッカーづくりも |
| 05:29 | 農業・建築・アート、3つがそろう場所を探して |
| 07:11 | 建築家・佐藤研吾さんを知る |
| 08:27 | イベントはコロナで中止。DMで「会ってください」 |
| 10:08 | 移動できない間は、一級建築士の勉強期間に |
| 11:05 | 独学4か月で挑んだ試験の結果 |
| 12:13 | 初めてのグループ展。ポセミン、さりげなくデビュー |
| 13:51 | 六本木ヒルズを腐らせる。都市に生態系の飛び石を |
| 15:51 | 来たこともなかった福島・大玉村へ |
| 16:15 | 住まいは築250年の古民家 |
| 18:24 | 東北弁は「流しそうめん」。最初のすれ違い |
| 20:27 | 大家さんの家でごはん、ガスボンベは自分で交換 |
| 21:40 | ほぼニート。旅人のいる家で毎日絵を描く |
| 23:28 | 1年目は大家さんの畑を手伝いながら |
| 24:47 | ポセミンは絵の中にちらっといるくらい |
台風で千葉を離れ、大阪で日雇いに
千葉の暮らしを終わらせたのは、大きな台風でした。2つの台風が続けて千葉を直撃し、何日も停電や断水が続いたそうです。それがきっかけでシェアハウスは解散。行き場をなくした松本さんは、大阪時代に住んでいた日本人の友人のシェアハウスに、ひとまず避難させてもらいます。
千葉での仕事は、地域の何でも屋。大阪に戻れば仕事もありません。そこで始めたのが日雇いバイトでした。
- ベルトコンベアで、ひたすらビールなどを詰める
- 老人ホームでの仕事
- 出荷前の商品を仕分けする大きな倉庫
いちばん合っていたのは、倉庫での仕分け。荷物は台車で運ぶので重くなく、1日2万歩ほど歩きながら体を動かす仕事が楽しかったそうです。ずっとじっとしているのは苦手。千葉で畑をしていたころと同じく、体を動かしているといいリズムになるのかもしれません。
単発だから、身構えなくていい
以前のフリーター時代は時間がなくなり、ポセミンを描く余裕もなくなっていました。でも今回は違いました。シェアハウスの人たちがとてもいい人で、負担を減らしてくれたこと。そして日雇いは単発なので、人間関係をつくる必要もなく、身構えなくていいこと。気持ちの切り替えもできるようになっていて、ポセミンを描き続け、ステッカーもつくり始めていたそうです。
農業、建築、アート。3つがそろう場所
大阪にずっといるつもりはなく、松本さんは次の場所を探していました。人に話を聞きに行き、「次はどこに行こうか」と面白い人を探す日々です。
条件は、農業と建築とアートができること。これまでも探してきましたが、3つがそろう場所はなかなかありません。1つか2つ当てはまれば移住する、を繰り返してきました。
建築には、仕事として関わりたい。それが難しくても、知識を増やしたい。当時はまだ、ポセミンより建築の絵を描くことの比重が大きかったころ。建築の知識が濃くなれば、絵ももっと濃いものが描けると考えていたのです。
「この人だ」と思った建築家
見つけるきっかけは、以前インターンをしていた大阪の設計事務所でした。遊びに行って話していると、「佐藤研吾さんという人がいる」と教えてもらいます。調べてみると、「これだ」と思いました。
建築家なので、もちろん建築をしている。ドローイングを描き、ピンホールカメラなどの造形物もつくっている。しかも住んでいるのは福島県大玉村。村なら農業もできる。3つの要素が、すべてそろっていたのです。
イベントが中止に。だからDMした
「建築家の人って怖いんじゃないか」とそわそわしながら、話しかけるつもりで佐藤さんのイベントを予約。ところが2020年3月、コロナでイベントは中止になってしまいます。
会えないなら、直接連絡するしかない。松本さんはDMで「会ってください」と伝えました。返事が来て、実際に会うことに。佐藤さんは従業員を募集していたわけではありませんでしたが、「大玉村は面白いところだし、住んでみる?」と話が進み、松本さんは「住みます」と即答。移住が決まりました。
待つ間に、一級建築士試験とグループ展
移住は2020年4月ごろの予定でした。でもコロナで移動ができなくなり、いつ動けるのかもわからない。計画が立てづらくなった松本さんは、自分で期限を決めることにしました。
8月ごろの一級建築士の試験までは勉強の期間にして、移住は9月ごろに。試験は予定どおり開かれましたが、結果は不合格でした。独学で、準備期間はわずか4か月ほど。当日、周りの受験生が持っているものを見て「何これ?」と驚くほど、何も知らないまま臨んだそうです。製図の試験に進む前に落ちてしまったと笑います。
ポセミン、さりげなくデビュー
大阪にいる間には、東京で初めてグループ展にも参加しました。主催は、千葉時代に色々教えてくれた絵の師匠。建築家や建築のイラストを描く人など、建築にまつわる人たちの作品が集まる展示です。
松本さんが描いたのは、自然に飲み込まれていく六本木ヒルズ。建築を描きたかった松本さんですが、師匠のアドバイスでポセミンをちらっと登場させました。これがポセミンの、さりげない展覧会デビューです。
六本木ヒルズを選んだのには理由があります。大学の卒業設計で選んだ霞が関ビルと同じく、現代の価値観を象徴する建物であること。そしてもう一つが、生態系をつなぐことでした。
大学の授業で、山と山の間に小さな自然のスポットを飛び石のようにつくると、鳥や生き物が移動できて生態系がつながる、と学んだことが心に残っていました。六本木ヒルズを腐らせ、その周辺も少しずつ腐らせていく。そうやって東京の中に飛び石を増やし、霞が関ビルまでつながらないか。そんな計画を、松本さんは自分の中で描いていたのです。
大玉村、築250年の古民家で
2020年9月ごろ、松本さんは大玉村へ移り住みます。福島県に来るのは、これが初めて。大玉村がどんなところかも知らず、佐藤さんの話を聞いて「面白そう」と思っただけでした。
住まいは、佐藤さんのつながりで2軒の候補がありました。ひとつは、壁があまりない家。もうひとつは、築250年の古民家。隙間はあるものの壁はある、昔のとても立派な家です。松本さんは古民家を選び、ひとりで暮らし始めました。同じ敷地内には、家主のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいます。
250年ものの、隙間のある家。見たときに「やめようかな」とは思わなかったのかと聞くと、「全くならなかった」。気温ではなく、すごくあたたかいものを感じたそうです。
東北弁は「流しそうめん」
大家さん夫婦はとてもいい人たち。ただ最初は、困ったことがありました。おじいちゃん、おばあちゃんの使う東北弁が、本当にわからない。松本さんいわく「流しそうめんみたい」。つかめた単語だけはわかるけれど、流れていった分はまったくわからないのです。
そのせいで、ごはんに誘われていたことに気づかず、別のところに出かけてしまったことがありました。約束を破ったようになってしまい、すぐに走って謝りに行ったそうです。急にやってきた人間に、最初は「何だこの子は」という空気もあったはず。それでも2週間もすると仲良くなり、ごはんに呼ばれて一緒に食べるようになりました。
お風呂のガスは、ボンベを自分で交換する仕組み。頭が泡だらけのときに突然お湯が出なくなったこともあるそうですが、それも「面白かった」と笑います。
旅人のいる家で、毎日絵を描く
このころの松本さんは「ほぼニート」。ときどき佐藤さんのところでアルバイトをしながら、毎日通ったのは、住まなかったもう一軒の家。その家を自然に返す計画の絵を描いていました。やはりテーマは「建物を自然に返す」です。
その家には、住みついている旅人がいました。毎日絵を描きに行くうちに仲良くなり、ごはんを作ってもらうように。村を歩いていると、誰かが野菜をくれる。旅人いわく、松本さんは「村をリゾートにしそうな危険性がない」ので、受け入れられやすいのだそうです。
人が集まると、さらに人が寄ってくる。「ロコハウス」と呼ばれたその家には、村の大工さんや地域おこしの人たちも集まるようになりました。同世代の友達はいなかったけれど、ずっと年上の人たちとも友達になれる。年齢は関係ないとわかったのも、このころです。
小さくそろい始めた3つ
畑は2年目から。1年目は大家さん夫婦の畑を手伝いながら教わりました。建築は佐藤さんのところでときどき。絵はロコハウスで。農業、建築、アートの3つが、小さくだけれどそろい始めました。
ただ、ポセミンはまだその絵の中にちらっといるくらい。主役になるのは、もう少し先の話です。
印象に残った一言
すごいあたたかい家だと思って。気温っていうか、なんかすごいあたたかいものを感じたんです。
出演者

- 松本悠以:アーティスト、作家、畑の仕事をする人。「循環」「腐る喜び」をテーマに、ポセミンが登場する作品をつくる。Instagram
- はな & 隆志:移動販売の珈琲屋「GALATA COFFEE」を夫婦で営む。ウルトラFM「サンライズすかがわ」月曜パーソナリティ
