ピンク色のイメージが強いポセミンを、なぜ土で描くようになったのか。第8回は、前回少しだけ触れた「土ポセミン」の背景を、じっくり聞きました。
土に現れる人の営み、育てた野菜が自分の体の一部に見えた瞬間、大玉村で足に根が生えたような感覚。そして「仙人」に教わった腐る5つの段階を描いた色鉛筆の連作と、使いにくさを追求した土器まで。松本悠以さんの作品の根っこにある考え方の話です。
この回の話題
| 時間 | 話題 |
|---|---|
| 00:01 | 前回のふり返り。空白の個展と東京のアートフェア |
| 02:08 | なぜ、土だったのか |
| 02:30 | 土には、そこに住む人の営みが現れる |
| 03:12 | 大玉村の畑で、土の考えが深まった瞬間 |
| 04:15 | 育てた野菜は、自分の体の一部 |
| 05:21 | みんなで同じものを食べて、体が大玉村になる |
| 06:34 | 今住む土地の土で、今の自分を描く |
| 07:40 | 「仙人」に教わった、腐る5つの段階 |
| 08:47 | どの段階がおいしいかは、自分の舌で決める |
| 10:53 | 色鉛筆で描いた連作「未熟」「適熟」 |
| 12:55 | 「完熟」「過熟」 |
| 15:56 | 土で描く前に、土器をつくっていた |
| 17:04 | 使いにくさを追求した土器 |
| 19:06 | 東京の展示に、土器も持っていく |
土には、人の営みが現れる
松本さんは、もともと土にとても興味があり、土について考えることが多かったそうです。自然の近くに移住し、土に触れる機会をたくさんつくってきました。
土は動かない。だからこそ、そこに住む人の営みがはっきり現れる。耕せば耕すほどやわらかく、色も黒くなっていく。逆に何も手入れしなければ、どんどんカチカチになって、生き物のいない土になっていく。
育てた野菜は、自分の体の一部
土についての考えが深まったのは、大玉村で自分の畑を管理していたときのこと。育てた野菜は、いずれ自分が食べて、体の中に入る。今は体の外にあっても、自分の体の一部に見えたのだそうです。
だとしたら、その野菜が養分を吸っている土も、自分の一部。自分の体と、身の回りの世界との境界線がわからなくなった瞬間がありました。
みんなの体が、大玉村になる
古民家の大家さん夫婦には、よくごはんを食べさせてもらっていました。畑の野菜を使った料理。村の人が集まるごはん会。その土地でできた同じものを、みんなで食べる。どんどん体自体が大玉村になっているんじゃないか。自分の足に根っこが生えて、大玉の一部になったような感覚があったといいます。
ポセミンは、松本さんの生まれ変わりとして描いている存在。だとすれば、今住んでいる土地の土でポセミンを描けば、今の自分が描けるんじゃないか。それが、土でポセミンを描く理由です。
「仙人」に教わった、腐る5つの段階
大玉村にいたころは、まだ土そのものは使わず、その考えを色鉛筆で表現していました。きっかけのひとつが、毎日通っていた「ロコハウス」にいた、自称「仙人」の言葉です。
物が腐る段階は5つある。未熟、適熟、完熟、過熟、そして腐熟。果物は完熟がおいしいイメージがあるけれど、仙人は「そうじゃない、自分の舌で確かめろ」と言いました。どの段階がいちばんおいしいかは、自分で決めるんだ、と。
色鉛筆で描いた4枚の連作
その5段階に沿って、ポセミンの内側、精神的な部分がどんどん熟していく絵を描きました。ポセミンはピンク色だけでできているのではなく、いろいろな要素が組み合わさってやっとできあがっている。畑が自分の内臓なのではないか、村の人たちのおかげで生き延びた、そんな大玉村での実感も込められています。
- 未熟:継ぎはぎのパッチワークのような四角。自分の要素は1つじゃないと気づいた段階
- 適熟:要素の形が、1つずつ違うことに気づき始める
- 完熟:いろいろな要素の中でも、自分が大事にしたいものがあると気づく
- 過熟:大事なものがぎゅっと詰まって銀河のようになり、弾けてまた生まれていく
最後の「腐熟」は、まだ描いていません。4枚は空白の個展でも展示し、松本さんのInstagram(posemin_jp)で見ることができます。
使いにくさを追求した土器
その後、いろいろなアーティストと話す中で、土そのものを使う方法もあると思い始めます。ただ、最初は土とポセミンが結びつかず、まずつくったのは土器でした。大玉村にいたころ、西会津での滞在制作でのことです。
学校で習うような土器とはまったく違う形。細胞のような丸いものがくっついたり離れたりしたような、ボリュームのある丸い形に、足が3本。入り口は小さく、中全体が見通せない。土に感じていた「中に何かいるかもしれない」という怖さと、生き物のような気配を表した形です。
自然のものは、人間の都合がいいようにはできていない。だから、使いやすさではなく、使いにくさを追求した。20個あまりつくった土器は、ときどきポセミンカフェにも登場します。
東京の展示に、土器も
収録時点では、5月21日から6月21日まで東京のギャラリーでの展示も控えていました。若手の作家が、作品として完成する前の「試し」を置く企画で、まさに「未熟」を展示するもの。和紙と土ポセミンを組み合わせた作品とともに、土を使い始めたきっかけとして、土器も並べる予定だと話していました。
印象に残った一言
この土も私の一部だってなって。自分の体と身の回りの世界の境界線が、わからなくなったときがあったんです。
前後の回
出演者

- 松本悠以:アーティスト、作家、畑の仕事をする人。「循環」「腐る喜び」をテーマに、ポセミンが登場する作品をつくる。Instagram
- はな & 隆志:移動販売の珈琲屋「GALATA COFFEE」を夫婦で営む。ウルトラFM「サンライズすかがわ」月曜パーソナリティ
