「何もない」も、見立てひとつで愛おしい。手仕事の宿と、次の世代へつなぐ林業の時間|妻とか、母とか、娘とか、女とか。#4

「何もない」も、見立てひとつで愛おしい。手仕事の宿と、次の世代へつなぐ林業の時間 podcast

前回に続いて、ゲストハウス「guesthouse Nafsha」の話。今回は、宿づくりに力を貸してくれた作家さんたちの手仕事から始まります。

使い込むほど味が出る椅子、古い蚊帳を染めたカーテン。その原点にある古道具屋さんの「見立て」という考え方。本家の山の木で建てた家と、何十年も先を見る林業の時間。そして、消費されない観光と、福島から世界へ声を届けることまで、話は大きく広がりました。

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この回の話題

時間話題
00:30前回の続きから
01:00布もの作家・永瀬愛子さん
02:20経年変化を楽しめる椅子に
03:002種類の生地を重ねた4脚の椅子
03:50古い蚊帳を染めたカーテン
04:30麻の布をつないだポジャギ
05:10やってみたから、すごさがわかる
06:00原点は「古道具 時雨」
07:20「見立て」は想像力
08:00「何もない」も、見方しだい
09:00名前のないものは苦手な隆志さん
10:00あきちゃんと環境経済学
11:00本家の山の木で建てた家
11:40馬で木を運んだ、最後の時代
12:40いちばん時間軸の長い産業
13:30山は、次の世代への財産
14:30家づくりは、暮らしを知る機会
15:30受け継がれにくくなる技術
16:30夕食を囲んで話すこと
17:20須賀川と観光
19:00消費型の観光にはしたくない
20:00復興のストーリーを消費されたくなかった
20:50背伸びしない、等身大の須賀川
21:20世界で知られている「福島」
22:10福島から、世界へダイレクトに
23:00海外からのお手紙も待っています
24:00旧岩瀬村は、デンマークの景色
24:40エシカルWebメディア「ff」

使うほど愛着がわく、手仕事の宿

Nafshaの家具や布ものには、作家さんたちの手仕事が詰まっています。そのひとりが、鏡石町に住む布もの作家の永瀬愛子さん。腕は確かなのにとても謙虚な方で、美郷さんはすっかりファンなのだそうです。

すり切れると、下から別の生地が

もとは合皮張りだった4脚の椅子。張り替えを相談するなかで、着地したのは「経年変化を楽しめるもの」でした。汚れたり古くなったりして捨てるのではなく、古くなったからこそ味が出て、より大切にしたくなるもの。Nafshaが目指していたのは、まさにそういうものです。

永瀬さんは、4脚それぞれに違う生地を二重に張ってくれました。使ううちに表がすり切れてくると、下から別の生地が顔を出す。取り付けは、家具職人のyashu・佐久間隼人さん。ほかではなかなか見られない4脚に仕上がりました。

蚊帳のカーテンと、ポジャギ

客室の写真で印象的な大きなカーテンは、古い蚊帳を染め直したもの。上が白で、だんだん青にグラデーションしていきます。永瀬さんが大切にしまっていたものを持ってきてくれて、客室とリビングを仕切る場所に合わせてリサイズしてくれました。

洗面所には、韓国のパッチワーク「ポジャギ」。永瀬さんがずっとストックしていた麻の布は、1枚だけでは使い道が少なくても、はぎ合わせれば1枚ののれんになります。デンマーク留学で手工芸を経験した美郷さんだからこそ、その根気と技術のすごさがよくわかるのだそうです。

原点は「古道具 時雨」の見立て

永瀬さんや佐久間さんとつながるきっかけになったのが、須賀川の古道具 時雨さん。東京に住んでいたころからInstagramを見て、なんていうセンスだろうと思っていたお店です。移住してから話すようになり、そこから作家さんたちとの縁が広がっていきました。

時雨さんのお店は、高級なものを磨き上げて売るのではなく、何に使うのかわからない部品を丁寧に洗って置いておく。「お気に召したらどうぞ」というスタンス。つまりは「見立て」で、そこにあるのは想像力です。

「何もない」も、見方しだい

「須賀川は何もない」と言う人もいる。でも、想像力をふくらませれば、こんな見方をするとこんな魅力がある、と見えてくる。Nafshaでも、写真立ての代わりに長い文鎮で書を押さえたりと、決まりにとらわれずに使っています。その自由さとおおらかさが、地方にはものすごく必要なのではないか、と美郷さんは話します。

ちなみに隆志さんは、名前のついていないものや説明書のないものは苦手なのだとか。はなさんいわく、買い物に行くと「興味がないオーラ」が出るそうです。

本家の山の木で建てた家

夫のあきちゃんは、大学で環境経済学を学んだ人。ルーツは旧岩瀬村にあり、本家のおじいちゃんは今も自分の山を自分で管理しています。Nafshaの家も、その本家の山の木を切って建てられたものです。

当時は、馬で山に入って1本ずつ木を選び、運び出していました。今同じことをしようとすると、大きな機械を入れて大規模に切らなければならず、コストがかかりすぎてできない。Nafshaは、馬で木を運んだ最後の時代の家なのだそうです。ゲストには、馬が写った当時の写真も見せているといいます。

山は、次の世代への財産

一次産業のなかでも、林業はいちばん時間のスパンが長い。木が家の材木になるまでには30年、40年かかります。今植えた木は、子どもや孫の世代が使うもの。昔、山が財産だったのは、自分の時代のためではなく、次の世代のための蓄えだったから。自分たちの利益だけを考えていては、林業はできません。それは、美郷さんとあきちゃんが大切にしたいことにもつながっています。

組み立て式の住宅は、マニュアル通りにつくれるから若い職人もすぐに活躍できる。でもその分、技術は受け継がれにくい。どこを削ってよくて、どこを削ってはいけないのか。家づくりは、それを真剣に考えるいちばんの機会だと美郷さんは話します。宿泊したゲストのほとんどが夫婦と一緒に夕食を囲み、そこでこうした話をするそうです。

消費されない観光を

今、須賀川市でも観光に力を入れようとする動きがあります。でも、数時間だけ滞在して帰っていく観光は、少し薄っぺらく感じる、と隆志さんとはなさん。一泊すれば、都会では触れられない話や体験に出会い、須賀川のイメージもきっと変わる。実際、Nafshaに泊まった人たちは、須賀川での思い出をとても大切にして帰っていくそうです。

美郷さんがつくりたくなかったのは、まさに消費型の観光でした。南相馬出身の美郷さんは、地元の復興のストーリーが消費されるように使われることが、本当に嫌だった。それをせずに、福島の暮らしに近いところで魅力を伝えたい。京都のような観光地にはかなわないのだから、背伸びせず、等身大の須賀川でいい。

福島から、世界へダイレクトに

デンマークで世界の人たちと話して感じたのは、福島は知名度がある、ということ。原発事故というネガティブなイメージですが、だからこそ、福島から世界へ直接発信することはとても有効だといいます。デンマークでは朝の集まりの時間に手を挙げ、福島の魅力や手仕事を英語でプレゼンしました。「なぜ原発事故があったのに、まだ住んでいるの?」と普通に聞かれるからです。

福島から言っても意味がない、と思わずに、言いたいことがあるなら声に出してほしい。そう美郷さんは話します。英語のお手紙での予約も大歓迎。今のところ海外から直接の予約はまだなく、それが目標なのだそうです。散歩をしていると、旧岩瀬村の景色はデンマークにそっくりなのだとか。

話は、美郷さんが運営するエシカルWebメディア「ff_私たちの交換日記」へ。続きは次回です。

印象に残った一言

自分たちの時代に使えるものじゃなくて、次の世代に向けての財産だったんだよ。

前後の回

出演者

  • 佐藤美郷:南相馬市出身の編集者・ライター。メディア「ff_私たちの交換日記」とゲストハウス「guesthouse Nafsha」を運営するローカルエディター
  • はな & 隆志:移動販売の珈琲屋「GALATA COFFEE」を夫婦で営む。ウルトラFM「サンライズすかがわ」月曜パーソナリティ