“消費されない観光”を福島から。「お手紙予約」のゲストハウスができるまで|妻とか、母とか、娘とか、女とか。#3

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2019年6月、須賀川に移り住んだ美郷さんとあきちゃん。ゲストハウスの物件探しは、郡山駅前から始まりました。たどり着いたのは、お義父さんが持っていた築40年ほどの家。場所は、駅から車で20分ほどの旧岩瀬村です。

今回は、ゲストハウス「guesthouse Nafsha」ができるまでの話。予約は手紙でしか受け付けない理由。そして、新築そっくりにはしないと決めたリノベーションで、大工さんと一つずつ選んでいった家づくりについて聞きました。

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この回の話題

時間話題
01:20これまでのふり返り。南相馬から成田、淡路島、そして須賀川へ
02:392019年6月に須賀川へ。グランドオープンは2021年4月
03:16最初は郡山駅前の物件を探していた
04:28お義父さんがぽろっと教えてくれた、旧岩瀬村の家
06:00南相馬に似た、のどかな風景にひと目ぼれ
08:03民泊新法と、農家民泊という許可
09:28なぜゲストハウスだったのか
10:58友人のアイデアから生まれた「お手紙予約」
11:34ドラマチックではない、普通の福島の暮らしを
13:05手紙から伝わる、その人の背景
14:22ワンクリックで消費される場にはしない
14:58新築そっくりにはしないリノベーション
15:57家具職人でもある大工さんとの出会い
17:18満足できなかった水まわりの工事
19:47家のつくりを一つずつ教わる
21:03節穴を残したダイニングテーブル
22:05木は生きている。人間の都合だけでは成り立たない
23:51次回へ。鏡石町の作家さんの話

郡山駅前から、旧岩瀬村の家へ

東京にいるころから、「ゲストハウスをやりたい」というところまでは決まっていたふたり。福島に知り合いの多いあきちゃんたちが周りにそう話しているうちに、物件を紹介してもらえるようになりました。

最初に紹介されたのは、郡山駅前の中古物件。震災後に放置された空き家で、かなり傷んでいました。そこは決まりませんでしたが、民泊やゲストハウスには駅前の立地がいいと考え、郡山駅周辺で探し続けます。でも、リノベーションができて、民泊もさせてくれる賃貸物件は、ほぼありませんでした。

お義父さんが、ぽろっと

どうしようかと思っていた矢先、お義父さんが「昔使っていた2階建ての家があるよ」と、ぽろっと教えてくれます。ずっと人に貸していて、ちょうど空くタイミングだったのです。駅前でもないし古いし、合わないだろうと、あまり言わずにいたのかもしれません。

見に行ってみると、当時で築40年ほど。古くはあるけれど、持ち家なのでリノベーションは自由にできる。手を加えれば十分使えそうな状態でした。

何より、環境が気に入りました。須賀川の駅から車で20分ほどの、旧岩瀬村。田んぼが開けていて、のどかで、なだらかな山がある。美郷さんの地元・南相馬市の風景によく似ていたのです。「もうここでいいね」と、あきちゃんと決めました。そこから2020年のまる1年をかけて家を改修し、2021年4月にグランドオープンを迎えます。

最初から、のどかな場所を目指して探していたわけではなかった。「言われてみたら、最初は違ったのかも」と美郷さん。この家に出会ってから、コンセプトやリノベーションの方向性が固まっていきました。

法律も、後押しに

ゲストハウスに決めた理由の一つは、東京にいたころに民泊新法(住宅宿泊事業法)ができて、法律が整ったことでした。ただ、宿泊施設をつくれるエリアは細かく決められていて、駅前だと難しい場合もあったそうです。

結局、今は民泊新法ではなく「農家民泊」の許可で営業しています。岩瀬の地域と、ふたりの営業の条件だからこそできた形。それも、ここでやりやすいと感じた後押しになりました。

予約は「お手紙」だけ

そもそも、なぜゲストハウスだったのか。福島は復旧・復興のフェーズを経てきました。だからこそ、まず外の人に福島へ来てもらう機会が必要だ。外の人と地元の人が出会い、外から見た福島を知ってもらう場をつくりたい。その思いに、ふたりはすぐ合意しました。来てもらうなら泊まれる場所があった方がいい。そもそも宿も少ない。そうして、ゲストハウスという形になりました。

普通の福島の暮らしを知ってほしい

Nafshaのコンセプトは、復興中、そして復興後の「リアルな福島」を知ってもらうこと。美郷さんの地元・浜通りは、ドラマチックに描かれることが多い場所でした。大変なことを乗り越えてきた人たちがたくさんいる一方で、それを盛り上げるような報道や発信が目立った時期もあった。

でも、目立って出てくる人ではない人たちの、普通の福島の暮らしを知りたい人もいるはず。そう思って、その場をつくりたかったのです。

手紙から、その人が見える

そんなNafshaの特徴が、手紙でしか予約できない「お手紙予約」です。実はこれ、オープン直前に決まったもの。ふたりの共通の友人が「お手紙予約がいいんじゃない?」と提案してくれたアイデアを、そのまま採用しました。「その方のアイデアを取ったみたいになっちゃうから、ちゃんと言っておこうと思って」と美郷さん。

ワンクリックで予約できるメールと違い、手紙をわざわざ出すのは、本当の福島を知りたい人。聞き手の隆志は「ある意味、うまいやり方」と感じていたそうです。

手紙は、字の形や文章の書き方、紙や封筒の選び方からも、その人の雰囲気が伝わってきます。急いで書いたんだろうなという若い男の子の手紙でも、まったく嫌ではない。「その背景が見えるじゃないですか。それでも書いてくれたんだなって。どんな形でも、もらうとうれしいんです」。実際に会ってみると「この人があの手紙を!」という意外な出会いもあるそうです。

ワンクリックで消費される場にしない

お手紙予約に限らず、最初のコンセプトとして強く決めていたのは、「ワンクリックで簡単に予約して消費されるような場をつくってはいけない」ということ。民泊の予約サイトや、大手の旅行予約サイトに載せることもできたはずですが、それは絶対にやらないと決めていました。

新築そっくりにはしない

その考えは、リノベーションにも貫かれています。お金をかければ、まるっときれいな新築そっくりにもできる。それはそれでいいけれど、自分たちはそうしない。身の丈に合った形で、持続可能なことや地産地消を実践したい。中古の家を使うこと自体が、今あるものを生かすことでした。

自分たちの家じゃないからこそ

最初に手をつけたのは、劣化していたお風呂やトイレなど水まわり。紹介してもらった地元の工務店さんにお願いしましたが、満足度は低かったといいます。

あとからいろんな人に聞くと、「あるある」なことだそうです。頼む側より、施工する側のやりやすさやこだわりが優先されやすい。自分たちが住む家ならそれでもよかったけれど、「新築そっくりにしたくない」というコンセプトは、なかなかすり合わせられませんでした。

一つずつ一緒に選ぶ大工さん

そこで出会ったのが、中島村在住の家具職人で、大工でもある方。以前から作品を素敵だと思って見ていた人と、あれよあれよという間にご縁がつながりました。独立したばかりで、一人大工としても新しい挑戦だったようです。

たとえば、前の住人が置いていったダイニングテーブル。捨てることもできたけれど、生かしたいと相談すると、「天板だけ替えることもできますよ」。この木は硬い、この木は柔らかくて傷つきやすいけれど木目にこんな特徴がある。何種類もの木について説明し、一つずつ一緒に選んでくれたそうです。

気づいたことがあれば、勝手に進めず、必ず一度提案してくれる。当たり前のようでいて、手間も時間もかかる、当たり前ではないことです。家の部位の名前、壁の構造、なぜ断熱が必要なのか。壁塗りは自分たちでやるので、この段階で目地をきれいにしないとあとで困ること。一つずつ教わることが、すごく勉強になったといいます。

家づくりは、人生でそう何度もあることではありません。でも家は自分たちを守る、いちばん大事なもので、生活の質に直結します。しかもここは、知らないゲストが過ごす場所。「ここの木はこれで、こういう理由でこうなんです」と説明できることが、誇りを持って空間を提供できる強みになっています。

節穴を残したテーブル

新しい天板の縁は、既製品なら使いやすいようにツルツルに仕上げるもの。でも大工さんから「節穴のある側を表にすることもできますが、どうしますか?」と聞かれ、美郷さんは迷わず「そっちにしてください」。今もテーブルには穴が開いていて、うっかりすると埃がたまるし、上で字も書きづらい。それも聞いてみないとわからないことです。

木は、生きている

木は切ってすぐ使えるわけではなく、半年以上寝かせないと反ってしまう。日本の木造の家は、季節や湿度で膨らんだり縮んだりする。つまり木は生きていて、板一枚ももとは生き物だった。大工さんとのやり取りの中で、美郷さんはそれを強く実感したそうです。

人間の都合で「今だから」と切っても、木の側は合わせてくれない。そのスパンを大事にしないと、暮らしにはフィットしない。郡山の駅前で物件を決めていたら、この経験はなかったかもしれません。

リノベーションに関わった作家さんは、ほかにもいます。鏡石町在住の作家さんの話は、次回に続きます。

印象に残った一言

自分のエゴとか人間のエゴみたいなものだけで、生活って成り立たないんだなって感じました。

出演者

  • 佐藤美郷:南相馬市出身の編集者・ライター。メディア「ff_私たちの交換日記」とゲストハウス「guesthouse Nafsha」を運営するローカルエディター
  • はな & 隆志:移動販売の珈琲屋「GALATA COFFEE」を夫婦で営む。ウルトラFM「サンライズすかがわ」月曜パーソナリティ