世界観が生まれた大学時代|腐るラジオ #2「建築で腐る」

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建物を、壊すのではなく「腐らせて」自然に返したい。前回の続きで、糸と鉄筋の茶室に込めた思いから、大学時代に育った建築への考え方までを聞きました。日本初の超高層ビルを腐らせていく卒業設計、建築ではかなえられなかった理想、そしてその思想がポセミンの世界観へと受け継がれていくまで。「腐る」という言葉の印象が変わる回です。

この回の話題

時間話題
00:21前回のふり返り。暗黒のフリーター時代から初仕事へ
01:16BIWAKOビエンナーレの茶室、会場は江戸時代の建物
03:35なぜ「糸」で茶室をつくったのか
04:29同級生と後輩たちでつくったプロジェクト
07:00図面を描く建築家と、自分の手でつくること
08:41「縄文人のような」先生と、建築は文化をつくるという気づき
10:43まだ「腐る喜び」にたどり着く前。循環、破壊と再生
11:26卒業設計は霞が関ビルを腐らせる計画
13:35腐れない素材は、かわいそう
16:05リノベーションとの違い。人と植物と動物の空間
17:17建築では表現しきれず、アートと物語へ
20:22茶室にこっそり込めた「循環」
22:18当時のポセミンは細長くてキモ可愛い
23:53幼稚園の「原始人の日」と、今も怖い虫

糸と鉄筋の茶室は、こうして生まれた

大学時代の恩師から依頼された茶室は、BIWAKOビエンナーレのためのもの。文化財的な古い建物をきれいにして会場に使う、国際的なアートフェスティバルです。制作の場は、江戸時代から残る建物の中でした。

素材も形も自由。ただし同じ部屋にはほかの作家の作品も並ぶため、茶室の中からも周りが見えるようにする必要がありました。初めて下見に行くと、天井がとても高い。そこで「上から吊るしたい」と思ったそうです。

透明感がありながら、茶室という精神世界につながる文化を表せるもの。そこで選んだのが、心や精神を表すたとえによく使われる「糸」でした。はじめから形が見えていたわけではなく、同じゼミの同級生と二人を中心に、手伝ってくれた後輩たちと案を出し合いながら形にしていったそうです。

完成した茶室は動画で見られます。収録前に動画を見せてもらった聞き手も「想像を超えてた」と驚きます。一方の松本さんにとっては、大変すぎてしばらく見返したくなかった動画だそうです。

茶室にこっそり込めた「循環」

大学時代から「循環」が自分のテーマだった松本さん。この茶室にも、こっそりとそれを入れていました。鉄筋を円にし、糸が曼荼羅のように見えるようにして、宇宙や自然を連想させる。中に入った人が、日常から少し切り離されてひと息つける場所になれば、という思いです。この話を知ってから動画を見ると、また違って見えてきます。

建築は「文化をつくる」

松本さんが思い描いていた建築家は、図面を描いて大工さんとやり取りする仕事。茶室のように、考えるところから自分の手でつくるところまで全部やるのは想定の外で、依頼が来たときも「できるかな」という気持ちだったそうです。

そもそも大学に入ったころは、「なんとなく建築をやりたい」という憧れぐらい。それを大きく変えたのが、ゼミの先生でした。松本さんいわく「いい意味で縄文人のような」、思想の強い先生です。

建築はただの建物ではない。部屋の配置やつくりによって、そこに住む人の暮らし方が変わり、それが積み重なって文化になっていく。大学時代に松本さんは「建築には文化をつくる力がある」と気づき、自分が目指したい文化に沿う建築を、課題ごとに試していきました。

建築で、自然に恩を返す

今のテーマである「腐る喜び」という言葉には、このころはまだたどり着いていません。代わりにいつも口にしていたのが「循環」と「破壊と再生」。建築を通して地球や自然に恩を返していく、自然を癒していくものをつくりたい。建てることが仕事の建築とは、まるで逆向きの発想です。

霞が関ビルを「腐らせる」卒業設計

前回、全国大会で上位10作品に入ったと話していた卒業設計。その対象は、日本初の超高層ビルとして知られる霞が関ビルでした。

ビルに自然をどんどん入れ込み、少しずつ腐らせていく。変化していくビルの中で、人はどう住むのか。そこに墓地も入れて、ビルそのものが循環していく仕組みを考えたそうです。

きっかけは、東京にたくさんあるビルもいつかは使えなくなる、という疑問。建物は建てるのと同じくらい壊すのにも労力がかかる。新しく建てるのではなく、今あるものをどう自然に返すかを考えたかったのです。霞が関ビルを選んだのは、政治的なシンボルであることも理由でした。

若さゆえに霞が関に電話して「図面をください」と頼み、断られたというエピソードも。結局、古い雑誌をあさって図面を見つけたそうです。

腐れない素材は、かわいそう

壊さなければいけないものは、腐ることができない。松本さんはそれを「この素材は次に生まれ変われないんだ」と感じ、かわいそうに思ったといいます。自然のサイクルからはみ出したものを、もう一度その輪の中に入れてあげたい。

「腐るって、悪くなるとか食べられなくなるというイメージだったけど、新しいスタートの一歩なんだね」。聞き手の「腐る」の印象も、松本さんの話で変わっていきます。

建築から、ポセミンの世界へ

古民家の再生やリノベーションとは、何が違うのか。松本さんによれば、リノベーションは人が住むことが前提。自分が惹かれるのは、もう自然に返してしまう方向で、人間だけでなく植物や動物も喜ぶ空間。「私は結構ファンタジー寄りだなと思う」と話します。

ただ、建築にはお金が絡むもの。お金を稼ぐのとはまったく違う方向で考えてしまう松本さんは、建築でどうしたらいいか分からなくなります。そこで小さいころから好きだったアートや物語の方に、自分の思想を込める方がしっくりきたのです。

「建築でないとできないと思っていたけれど、ポセミンでも表現できるのではないか」。そう考えたところから、ポセミンの世界観が少しずつ決まっていったそうです。建築で気づき、建築では表現しきれないとも気づいた大学時代。聞き手も「人間と動物と植物の空間は、今のポセミンの世界にすごく活かされている」と感動します。

当時のポセミンは、まだ腐れていない

このころのポセミンは、細長くてキモ可愛い姿。毎日描いていたわけではなく、たまに描く程度でした。「形はまだ循環してなさそうだけど、メンタルはだいぶ腐っていた」と笑い合います。高校生で生まれたポセミンと、大学で育った思想が、あとから一つになっていったのです。

原始人の日と、今も怖い虫

自然が気になる素質は、もともとあったのかもしれない。幼稚園には「原始人の日」があり、裸で一日過ごすのが心地よかったそうです。

ただし、虫は今も怖い。土で絵を描くときも、畑を耕すときも、叫びながら作業しているとか。「虫の存在は尊敬しているんですけど」。循環の力強い担い手との距離感も、この先の話で変わっていくかもしれません。

印象に残った一言

腐れないってことは、自然のサイクルからはみ出してるものなのかなって思うと、すごく寂しい。

出演者

  • 松本悠以:アーティスト、作家、畑の仕事をする人。「循環」「腐る喜び」をテーマに、ポセミンが登場する作品をつくる。Instagram
  • はな & 隆志:移動販売の珈琲屋「GALATA COFFEE」を夫婦で営む。ウルトラFM「サンライズすかがわ」月曜パーソナリティ